平泳ぎは4泳法の中で最も複雑な動作を必要とする泳法であり、ストローク技術が泳ぎの質を大きく左右します。正しいストロークを身につければ、推進力が格段に向上し、効率的で美しい泳ぎが実現できます。
本記事では、平泳ぎのストローク技術について、基本から応用まで徹底的に解説します。初心者の方はもちろん、タイム向上を目指す中級者の方にも役立つ内容です。
平泳ぎのストロークとは?基本を理解しよう
平泳ぎストロークの定義
平泳ぎのストロークとは、両腕を使って水をかき、推進力を生み出す一連の動作のことです。他の泳法と異なり、左右対称の動きが特徴で、腕の動作とキック(足の動き)、呼吸を正確なタイミングで連動させる必要があります。
ストロークの重要性
平泳ぎにおいて、ストロークは推進力の約30〜40%を担います(残りはキックが60〜70%)。効率的なストロークができれば:
- 推進力の向上: 少ない力で大きく進める
- 体力の温存: 疲労を軽減し、長距離でも安定した泳ぎが可能
- タイムの短縮: 競泳では0.1秒を争うため、ストローク技術が勝敗を分ける
平泳ぎストロークの基本動作|4つのフェーズ
平泳ぎのストロークは、以下の4つのフェーズで構成されます。
1. グライド(ストリームライン)フェーズ
動作: 両腕を前方に伸ばし、体を一直線に保つ姿勢
ポイント:
- 腕は肩幅程度に伸ばし、手のひらは下向き
- 頭は両腕の間に入れ、視線はプール底を見る
- 体を水平に保ち、抵抗を最小限にする
よくある間違い: 腰が落ちて体が「くの字」になる、腕が開きすぎている
2. キャッチ(アウトスカル)フェーズ
動作: 両手で水を捉え、外側に開き始める動作
ポイント:
- 手のひらを外側に向けながら、肩幅よりやや広めに開く
- 肘は高い位置をキープ(ハイエルボー)
- 手首を立てて、水を「掴む」感覚を意識
目的: 次のプルで最大の推進力を得るための準備
3. プル(インスカル)フェーズ
動作: 水を後方に押し出し、推進力を生み出すメインの動作
ポイント:
- 肘を曲げながら、手を胸の前に引き寄せる
- 前腕で水を後ろに押し出す意識
- 肘は体の側面より後ろに引かない(抵抗が増える)
- このフェーズで顔を上げて呼吸を行う
推進力のピーク: このフェーズで最大の推進力が発生します
4. リカバリーフェーズ
動作: 両手を前方に戻し、次のストロークに備える動作
ポイント:
- 両手を胸の前で合わせる
- 水面下または水面近くで素早く前方に伸ばす
- 手のひらを合わせるか、軽く重ねる
- このタイミングでキックを打つ
注意点: 腕を水上に出すと抵抗が増えるため、水面下で戻す
平泳ぎストロークの正しいフォーム|チェックポイント
腕の軌道
| フェーズ | 腕の位置 | 手のひらの向き |
|---|---|---|
| グライド | 前方に伸ばす | 下向き |
| キャッチ | 肩幅より外側に開く | 外側に向ける |
| プル | 胸の前に引き寄せる | 内側〜後ろ向き |
| リカバリー | 前方に戻す | 合わせる/重ねる |
肘の位置
ハイエルボー(肘を高く保つ)が基本
- ✅ 正しい: 肘が手首より高い位置にある
- ❌ 間違い: 肘が下がり、腕全体が沈んでいる
肘を高く保つことで、前腕で効率的に水を捉えられます。
手の動きの範囲
重要な原則: 「肩幅ルール」
- キャッチ時: 肩幅の1.5倍程度まで
- プル時: 肩のラインより後ろに引かない
腕を大きく動かしすぎると抵抗が増え、推進力が低下します。
ストロークとキックのタイミング|連動が成功の鍵
平泳ぎでは、ストロークとキックのタイミングが極めて重要です。
基本的なタイミング
1. グライド → ストローク開始(腕を開く) 2. プル → 顔を上げて呼吸 3. リカバリー(腕を前に戻す)→ キックを打つ 4. グライド → 1に戻る
タイミングの黄金ルール
「プル・ブリーズ・キック・グライド」
この4拍子のリズムを覚えましょう:
- Pull(プル): 腕で水をかく
- Breathe(ブリーズ): 呼吸する
- Kick(キック): 足で水を蹴る
- Glide(グライド): 伸びる
よくあるタイミングのミス
| ミス | 結果 | 改善方法 |
|---|---|---|
| 腕とキックが同時 | 推進力が相殺される | キックは腕が前に戻る時に打つ |
| グライドが短すぎる | 疲れやすく効率が悪い | キック後に1〜2秒伸びる意識 |
| キックが早すぎる | 腕の推進力が活かせない | 腕が前に伸びきってからキック |
平泳ぎストロークの上達のコツ|レベル別トレーニング
【初心者向け】基本フォームの習得
ドリル1: 壁キックからのストローク練習
- 壁を蹴ってグライドの姿勢を作る
- ゆっくりと1ストロークだけ行う
- フォームを確認しながら繰り返す
目的: ストロークの各フェーズを意識する
ドリル2: プルブイを使った腕だけ練習
- 足にプルブイ(浮力補助具)を挟む
- 腕の動きだけに集中できる
- 正しい軌道と水のキャッチを体得
【中級者向け】推進力の向上
ドリル3: ストロークカウント(SC)を減らす
- 25mを何ストロークで泳げるか計測
- ストローク数を減らすことで効率化を図る
- 目安: 初心者15〜20回 → 中級者10〜15回
ドリル4: テンポトレーナーの活用
- メトロノーム機能付きの水泳用具を使用
- 一定のリズムでストロークを練習
- リズム感とタイミングの精度向上
【上級者向け】競技力の強化
ドリル5: ハイピッチストローク
- ストローク頻度を上げて泳ぐ
- スピードの向上とパワーの持続力を養成
ドリル6: 抵抗軽減トレーニング
- パラシュートやドラッグスーツで負荷をかける
- 抵抗に負けない強いストロークを作る
よくある間違いと改善方法|ストロークの質を高める
間違い1: 腕を引きすぎる
症状: 肘が体の後ろまで行ってしまう
問題点:
- 抵抗が増加
- 推進力のロス
- 肩への負担が大きい
改善方法:
- 肘は肩のラインより前で止める
- 「小さく速く」を意識
- 鏡やビデオで自分のフォームをチェック
間違い2: 肘が下がる(ドロップエルボー)
症状: 肘が手首より低い位置になる
問題点:
- 水を効率的に捉えられない
- 推進力が50%以上減少
改善方法:
- キャッチ時に「肘を上げる」意識
- ハイエルボードリルを繰り返す
- 前腕で水を押す感覚を掴む
間違い3: リカバリーで腕を水上に出す
症状: 腕を水面より上で戻している
問題点:
- 空気抵抗と水の抵抗が増える
- 体が沈みやすい
改善方法:
- 手を胸の前で合わせたら、水面下で素早く前へ
- ストリームラインを崩さない意識
間違い4: グライドが短い・または長すぎる
短すぎる場合:
- 常に動き続けて疲労が蓄積
- 改善: キック後に1〜2秒伸びる
長すぎる場合:
- スピードが落ちてしまう
- 改善: グライドは慣性が残っている間だけ
最適なグライド: 体が前に進んでいる間は伸び、減速し始めたら次のストローク
呼吸とストロークの連動|スムーズな呼吸法
呼吸のタイミング
平泳ぎの呼吸は、ストロークのプルフェーズで行います。
手順:
- プルで水を後ろに押す
- 胸と肩が浮き上がる
- 顔を上げて素早く息を吸う
- リカバリーで顔を水に戻す
呼吸のポイント
- 顔を上げすぎない: 視線は前方やや下
- 顎を引かない: 自然に前を見る
- 素早く吸う: 0.5秒以内が理想
- 水中で吐く: グライド中に鼻から息を吐き始める
よくある呼吸の間違い
❌ 顔を真上に上げる → 腰が落ちて抵抗増
✅ 斜め前を見る → 体が水平を保てる
❌ 呼吸のたびに止まる → リズムが崩れる
✅ 流れの中で呼吸 → ストロークの一部として自然に
ストローク技術向上のための陸上トレーニング
水中だけでなく、陸上でもストローク技術を向上させられます。
1. チューブトレーニング
方法:
- ゴムチューブを固定し、平泳ぎのストローク動作を再現
- プルの軌道と筋力を同時に鍛える
効果:
- 正しい腕の軌道の習得
- ストローク筋の強化
2. シャドースイミング
方法:
- 鏡の前で平泳ぎのストローク動作をゆっくり行う
- フォームを目視確認しながら修正
効果:
- 動作の確認と修正
- 筋肉の動きの記憶(マッスルメモリー)
3. 肩甲骨の柔軟性向上
方法:
- 肩甲骨周りのストレッチ
- 肩回しエクササイズ
効果:
- ハイエルボーの維持が容易に
- 肩の可動域が広がり、効率的なストローク
ビデオ分析でストロークを改善する方法
自分のフォームを撮影する
撮影ポイント:
- 真横から: 体の水平度、ストロークの深さ
- 真上から: 腕の軌道、左右対称性
- 斜め前から: 呼吸のタイミング、顔の上げ方
チェック項目
✓ ストリームラインは一直線か?
✓ ハイエルボーができているか?
✓ 腕を引きすぎていないか?
✓ キックのタイミングは適切か?
✓ グライドは十分か?
比較分析
- 自分の泳ぎとトップスイマーの泳ぎを比較
- 違いを具体的にリストアップ
- 1つずつ改善に取り組む
レベル別ストローク目標|あなたの現在地を確認
| レベル | 25mストローク数 | 特徴 | 次の目標 |
|---|---|---|---|
| 初心者 | 18〜25回 | フォームが安定しない | 正しいフォームの習得 |
| 初中級 | 14〜17回 | 基本フォームは習得 | 効率化と推進力向上 |
| 中級者 | 10〜13回 | 効率的に泳げる | スピードとパワーの強化 |
| 上級者 | 7〜9回 | 高い技術とパワー | 競技レベルの洗練 |
| 競技者 | 5〜7回 | トップレベルの技術 | 0.1秒単位の改善 |
注意: ストローク数は身長や腕の長さでも変わります。上記は目安として参考にしてください。
よくある質問(FAQ)|平泳ぎストロークの疑問を解決
Q1. 平泳ぎで手はどこまで開いていいの?
A. 肩幅の1.5倍程度までが目安です。それ以上開くと抵抗が増え、推進力が低下します。「コンパクトに速く」が現代の平泳ぎの基本です。
Q2. ストロークとキック、どちらが重要?
A. 平泳ぎではキックが60〜70%の推進力を担うため、キックがより重要です。ただし、ストロークが正しくないとキックの推進力も活かせないため、両方をバランスよく習得することが大切です。
Q3. ストローク中に体が沈んでしまいます
A. 以下の原因が考えられます:
- 顔を上げすぎている → 視線を斜め前に
- 腕を引きすぎている → 肘を肩より後ろに引かない
- グライドが短い → キック後にしっかり伸びる
- 体幹が弱い → 陸上での体幹トレーニングを追加
Q4. 速く泳ぐにはストローク頻度を上げるべき?
A. 単にピッチ(頻度)を上げるだけでは効果的ではありません。「1ストロークあたりの推進力(ストロークレングス)× ストローク頻度(ピッチ)= スピード」です。まずは効率的なストロークを習得し、その後にピッチを上げる順序が理想的です。
Q5. ハイエルボーができません
A. 以下の練習が効果的です:
- 陸上で肘を高くしたストローク動作を繰り返す
- プルブイで腕だけの練習
- スカーリング(手のひらで8の字を描く動作)で水の感覚を磨く
- 肩甲骨の柔軟性を高めるストレッチ
意識するだけでは難しいため、反復練習と筋力・柔軟性の向上が必要です。
まとめ|平泳ぎストロークをマスターして理想の泳ぎを実現
平泳ぎのストロークは、4つのフェーズ(グライド・キャッチ・プル・リカバリー)を正確に実行し、キックとの完璧な連動が求められる繊細な技術です。
本記事のポイントを復習しましょう:
- ✅ ハイエルボーを保つ: 肘を高く、効率的に水を捉える
- ✅ コンパクトなストローク: 腕を引きすぎず、肩幅ルールを守る
- ✅ タイミングが命: プル・ブリーズ・キック・グライドのリズム
- ✅ グライドを活かす: キック後にしっかり伸びて推進力を最大化
- ✅ 継続的な改善: ビデオ分析とドリル練習で技術を磨く
平泳ぎのストローク技術は、一朝一夕には習得できません。しかし、正しい知識と継続的な練習によって、必ず上達します。
今日学んだポイントを1つずつ実践し、効率的で美しい平泳ぎを目指してください。プールでの練習が、あなたの泳ぎを次のレベルへと導くでしょう。
さあ、理想のストロークを手に入れるために、今日から実践を始めましょう!

