
背泳ぎの手のかき方を極める!推進力を最大化し楽に速く泳ぐための全技術

背泳ぎを練習していて「一生懸命手を回しているのに、ちっとも前に進まない」と感じたことはありませんか?
実は、背泳ぎの手のかき方は、ただ腕を振り回せば良いわけではありません。がむしゃらに動かすほど水は逃げ、体力を消耗するだけの「空回り」状態に陥ってしまいます。
この記事では、背泳ぎの推進力を劇的に変える「手のかき方」の極意を、SWELLのデザインをフル活用して徹底解説します。
- 水を「面」で捉えるためのキャッチの角度
- 肩の痛みを防ぎ、可動域を最大化するローリングの連動
- 現代水泳の主流であるプル軌道の新常識
- 25mを楽に、かつ速く泳ぎ切るための脱力と集中のリズム
私はこれまで多くのアドバイスを行ってきましたが、手のかき方が変わるだけで「水に乗る感覚」が掴めるようになり、1ストロークで進む距離が2倍近くに伸びた例も少なくありません。
結論から言えば、背泳ぎの進化は「指先の繊細な感覚」と「背中の大きな筋肉」を繋げることにあります。
これから解説するステップを実践すれば、あなたも雑誌の1ページのような、美しく力強い背泳ぎを手に入れることができるでしょう。それでは、具体的な技術論に入っていきます。
背泳ぎの手のかき方における「推進力」の正体
背泳ぎで速く泳ぐために最も重要なのは、腕の筋力ではありません。どれだけ効率よく「動かない水の壁」を作り、それを後ろに押し出すかという物理現象の理解です。
多くの初心者が、水の中で手を素早く動かそうとして失敗します。水は実体のない流体ですから、速く動かそうとすればするほど、指の間から逃げていってしまうのです。
推進力の正体は、手のひらと前腕(ひじから下)を一つの大きな「オール」に見立て、水との摩擦を最大化することに他なりません。
水を「撫でる」のと「掴む」の決定的違い
水泳において「水を掴む(キャッチ)」という表現がよく使われますが、これは単なる比喩ではありません。実際に水には「重み」があり、それを指先で感じ取れるかどうかが分かれ目となります。
かつての教え子に、どれだけ筋トレをしてもタイムが上がらない選手がいました。彼の泳ぎを水中カメラで分析すると、手のひらが水面に対して斜めに入り、水を切るように撫でてしまっていたのです。
これでは、エンジンだけが空吹かししているスポーツカーと同じです。まずは、手のひらに「ズシリ」とした重みを感じる位置を探すことから始めなければなりません。
水中に「自分専用の取っ手」が浮いていると想像してください。その取っ手をしっかりと握り、自分の体をその先へ引き寄せる感覚こそが、正しいキャッチの姿です。
この感覚を養うためには、以下のステップで自分の手のひらの角度をチェックしてみてください。
- 入水直後、すぐに手を下げず、一瞬だけ指先をプールの底へ向ける。
- 手のひら全体に「冷たい水の抵抗」が均等にかかっているか確認する。
- その「重み」を逃さないように、肘を高い位置に保ったまま後ろへ運ぶ。
「水は掴むものではなく、引っ掛けるもの。指先から前腕までの面を、いかに垂直に後ろへ向けられるかで勝負が決まる。」
ナショナルチーム・コーチのアドバイスより
推進力を生む「揚力」と「抗力」のバランス
水泳の推進力には、大きく分けて「抗力(水を後ろに押す力)」と「揚力(翼のように水の流れで生む力)」の2種類があります。
背泳ぎの場合、かつてはS字を描くように手を動かして揚力を引き出す手法が主流でしたが、現代では「効率的な抗力の活用」に注目が集まっています。
以下の表は、それぞれの力の特性をまとめたものです。どちらか一方に偏るのではなく、バランスよく活用することが重要です。
| 力の種類 | 特徴 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 抗力 | 正面から水を力強く押す | 低速からでも推進力を得やすい | 腕の筋力を消耗しやすい |
| 揚力 | 水の流れを利用して浮き上がる | 後半の失速を防ぎ、滑らかな泳ぎになる | 高度なテクニックと感覚が必要 |
特に背泳ぎは、クロールと違って水中が見えません。そのため、揚力を狙いすぎて手の軌道が複雑になりすぎると、結局どちらの力も得られない「迷子」の状態になりがちです。
まずは「手のひらを常に足の方向(進行方向の逆)に向け続ける」という、シンプルな抗力主体の意識を持つことで、安定した推進力が得られます。
専門家の視点:
最近のトップスイマーの傾向を見ると、過度なS字プルは影を潜め、より直線的で力強いプルへと移行しています。これは、水着の進化や体幹トレーニングの普及により、よりダイレクトなパワー伝達が可能になったためです。
理想的な「S字プル」は本当に必要なのか
多くの教本に載っている「S字プル」。これは入水後に外側へ広げ、内側へ絞り、最後に外側へ押し出すという軌道ですが、これを意識しすぎると逆効果になることがあります。
なぜなら、S字を意識しすぎるあまり、肝心な「水を押す力」が横に逃げてしまう人が多いからです。特に肩の柔軟性が低い人が無理にS字を描こうとすると、肩関節を痛めるリスクも高まります。
現代の背泳ぎにおいて推奨されるのは「ストレートプルに近い、緩やかな曲線」です。無理にカーブを作る必要はありません。
- 入水ポイントは肩の延長線上よりも、やや外側。
- 肘を曲げながら、手のひらを最短距離で太ももの横へ運ぶ。
- 「S字」ではなく、結果として「少し膨らんだ」程度の意識で十分。
実際、世界記録保持者の中にも、ほとんど直線に近い軌道で驚異的なタイムを叩き出す選手がいます。大切なのは軌道の形ではなく、「どの瞬間も水を手放さない」という集中力です。
キャッチからプッシュまでを極める4つのフェーズ
背泳ぎの一連の動作は、大きく4つのフェーズに分かれます。それぞれの役割を理解し、滑らかに繋げることで、途切れない推進力を生み出すことができます。
腕をグルグルと回すだけでは、各局面での役割が曖昧になり、エネルギーのロスが生まれます。一つ一つの動作を「止める」のではなく「連動させる」意識が不可欠です。
全てのフェーズにおいて、主役は「指先」ではなく「肘の位置」であることを忘れないでください。
小指からの入水が「深いキャッチ」への最短ルート
背泳ぎの入水で最も多い間違いは、手の甲からバチャンと入ってしまうことや、親指から入ってしまうことです。これでは水面に空気を巻き込んでしまい、キャッチで泡を掴むことになります。
基本は必ず「小指から」の入水です。これにより、肩関節が自然に内旋し、スムーズに水の中へと手が沈んでいきます。
あるマスターズスイマーの方は、入水時に肩が詰まる悩みを抱えていましたが、小指から入れる意識を持つだけで、スッと深い位置まで手が届くようになりました。
- 耳の横を腕が通過する際、手のひらを外側に向ける。
- 小指が最初に水面に触れるように、腕を遠くへ伸ばす。
- 入水した瞬間に、指先を少しだけ下に向け、水の「壁」を探す。
入水位置が体の中心に寄りすぎると(クロスオーバー)、体が蛇行する原因になります。時計の針で例えると、右回りの場合は「11時」、左回りの場合は「1時」の方向へ入水するのがベストです。
肘を立てる「ハイエルボー」で重い水を捉える
入水後の「プル(引き)」の局面で、最も重要かつ難しいのが「ハイエルボー(肘を立てる)」という技術です。腕が棒のように真っ直ぐなままかいてしまうと、水は下へ逃げてしまいます。
肘を高く保つ(この場合は水面に近い位置、あるいは体よりも高い位置に保つ)ことで、前腕が垂直になり、より多くの水を後ろへ運ぶことが可能になります。
この感覚は、まるで「大きな樽を抱え込む」ような動きに似ています。力任せに引くのではなく、肘を支点にして、手のひらで水を後ろに送り出すイメージです。
「肘が先に引けてしまう(ドロップエルボー)」のは、推進力がゼロになる最大の原因です。肘が動く前に、まず指先と手のひらで水を引っ掛ける時間をコンマ数秒作りましょう。
「背泳ぎのプルは、腕で水をかくのではない。水の中に立てた柱を、肘と手のひらで掴んで自分を前へ進める作業だ。」
五輪メダリストの練習ノートより
太ももを「叩く」ような力強いフィニッシュ
ストロークの最後、手が水から出る直前の動作を「フィニッシュ(またはプッシュ)」と呼びます。ここで多くの人が、水を最後まで押し切らずに腕を抜いてしまいます。
しかし、実はストロークの中で最も加速が得られるのは、このフィニッシュの瞬間なのです。プルの段階で加速させた水を、最後に「パチン」と弾くように押し出すことで、もう一段階上のスピードに乗ることができます。
理想は、自分の太ももの横を、手のひらで力強く叩くようなイメージ。実際には叩きませんが、そのくらいの勢いで下方向、かつ後方へ水を押し出します。
- 肘が完全に伸び切るまで押し切る。
- 手のひらで太ももを撫でるようにして、親指から水上に抜く。
- この押し出しの反動を利用して、逆側の腕の入水を加速させる。
注意!:
フィニッシュで深く押し込みすぎると、今度は体が沈んでしまいます。あくまで「後方」へのベクトルを意識し、お尻の下まで手が回り込まないように注意してください。
肩のローテーションが「かく力」を最大化させる
「手のかき方」を語る上で、切っても切り離せないのが「ローテーション(体幹の回転)」です。腕だけの力で水をかこうとすると、すぐに限界が来ます。
背泳ぎは、体幹を左右に傾ける動きと連動させることで、初めて大きなパワーを発揮します。「腕でかく」のではなく「背中でかく」ための仕組みを理解しましょう。
ローリング不足が招く「肩の詰まり」と「空振り」
体が水面に対してずっと平らなまま(フラットな状態)だと、腕は非常に窮屈な動きを強いられます。肩の可動域が制限され、十分な深さまで手が届きません。
それだけでなく、フラットな泳ぎは水との摩擦面積を増やし、大きなブレーキになります。肩を交互に水面上に出すことで、抵抗を減らしつつ、より深い位置にある「重い水」をキャッチできるようになるのです。
| 泳ぎ方 | 推進力 | 肩への負担 | スピード |
|---|---|---|---|
| フラットな泳ぎ | 弱い(腕の力のみ) | 大きい(詰まりやすい) | 遅い |
| ローリングを使う泳ぎ | 強い(背筋を活用) | 小さい(スムーズ) | 速い |
「肩が痛くなる」という悩みを持つ方のほとんどは、このローリングが不足しています。無理に腕を回そうとするのではなく、体を傾けることで「腕が勝手に回る道」を作ってあげることが大切です。
鼻の軸をぶらさずに肩を入れ替える技術
ローリングを行う際、最も注意すべきは「頭まで一緒に動かさないこと」です。体が回転するにつれて顔も左右に揺れてしまうと、平衡感覚が狂い、真っ直ぐ泳げなくなります。
頭は「不動の軸」です。天井の一点を見つめたまま、鼻のラインを軸にして、その下で肩がダイナミックに入れ替わる様子をイメージしてください。
この「静」と「動」の対比が、美しい背泳ぎの正体です。首の付け根から下だけが回転する独立した動きを身につけましょう。
おでこに500円玉を乗せている(あるいはペットボトルを乗せている)と想像してください。それを落とさないように肩だけを左右に45度ずつ傾ける練習が効果的です。
背筋の力を指先に伝える「パワーライン」の構築
腕の力は、背中の大きな筋肉(広背筋)に比べれば微々たるものです。効率的なストロークとは、この背中のパワーを、肩を経由して指先までロスなく伝えることを指します。
これを実現するのが「パワーライン」の意識です。入水した側の肩がグッと深く沈み、逆側の肩が水面上に高く上がった時、体の中には対角線上の強力なトルク(回転力)が生まれます。
- 右手の入水と同時に、左肩を水面上に放り出す。
- 沈んだ右肩の重みを背中で受け止め、その反動で水をかく。
- かき終わる瞬間(プッシュ)と同時に、体幹を反対側へ入れ替える。
この連動が上手くいくと、腕の筋肉を使っている感覚がないのに、面白いように体が前へ進む快感を味わえるはずです。これこそが、トップスイマーが見ている世界です。
「ストロークは手で始めるのではない。腰のキレと肩の入れ替えが、結果として腕を動かすのだ。」
名門クラブのヘッドコーチ
スピードを劇的に変える「リカバリー」と「呼吸」の連動
水中の動作が完璧でも、水面上での「リカバリー(腕を戻す動作)」が乱れていれば、すべての努力は水の泡となります。
リカバリーは単に腕を前に戻す休息時間ではなく、次のストロークへ繋げるための「助走」であり、リズムを作るためのメトロノームです。
さらに、ここへ適切な呼吸のリズムが加わることで、全身に酸素を届けながら一定のピッチを刻み続ける「疲れ知らずの泳ぎ」が完成します。
最短距離を通る「脱力リカバリー」の秘訣
リカバリーで最も避けるべきは、腕を持ち上げる時に肩に余計な力が入ってしまうことです。肩に力が入ると重心が沈み、下半身の沈下を招きます。
かつて指導した選手で、後半に極端に失速するタイプがいました。彼の原因はリカバリーにあり、水面上でも筋肉を緊張させ続けていたため、乳酸が溜まるのが早かったのです。
「親指から抜き、空中でリラックスさせ、小指から入れる」という基本に忠実な動きこそが、肩のスタミナを温存する唯一の方法です。
腕は顔の真上を通るように垂直に上げます。横に振り回すと遠心力で軸がブレ、蛇行の原因になります。天井に向かって真っ直ぐ「手を挙げる」感覚が理想です。
脱力を体得するためのアクションプランは以下の通りです。次の練習で必ず意識してみてください。
- 親指が太ももに触れた瞬間に、腕のスイッチを切るイメージで脱力する。
- 腕を上げるのではなく、肩の回転(ローリング)に「腕が放り投げられる」感覚を持つ。
- 頂点(真上)を過ぎたら、小指を先行させて重力に任せるように入水させる。
専門家の視点:
リカバリー中の手首の形にも注目してください。手首が反り返っていると前腕に力が入りやすくなります。幽霊のようにダランと垂らした状態で移動させるのが、最高級の脱力技術です。
呼吸のリズムがプルのピッチを安定させる
背泳ぎは顔が常に出ているため、いつでも呼吸ができると思われがちですが、これが「リズムの乱れ」を生む落とし穴になります。
呼吸が不規則になると、心拍数が上がりやすくなるだけでなく、ストロークのタイミングまでバラバラになってしまいます。
「右腕で吸い、左腕で吐く」といった具合に、腕の動きと呼吸を完全に同期させることが、長距離を楽に泳ぐための絶対条件です。
あるマスターズ大会での出来事ですが、緊張で呼吸が浅くなった選手が、25mを過ぎたあたりで急激に失速しました。彼はピッチを上げようとしていましたが、呼吸のリズムが追いついていなかったのです。
無理に速く回そうとするのではなく、呼吸という「生命のリズム」に腕を合わせることで、驚くほど自然にスピードが維持できるようになります。
- 右腕がリカバリーに入った瞬間に、短く鋭く「吸う」。
- 左腕がリカバリーに入るまでの間、鼻から細く長く「吐き続ける」。
- 苦しくなる前に吐き切ることで、次の吸気で肺に新鮮な酸素を送り込む。
「呼吸は泳ぎのメトロノームである。ストロークが乱れた時は、まず呼吸を整えなさい。リズムが整えば、フォームは自ずと修正される。」
名門スイミングスクール・シニアコーチ
左右のバランスを整える「2軸」の意識
背泳ぎで真っ直ぐ進めない悩みを持つ方の多くは、体の中心(背骨)を軸に回転しようとして、腕が内側に入りすぎています。
理想的なのは、左右の肩のラインに仮想のレールを引いた「2軸」の意識です。これにより、入水が頭の後ろに回り込むのを防ぎ、効率的なかきが可能になります。
以下の比較表で、1軸(中心軸)と2軸の違いを整理してみましょう。
| 意識する軸 | 入水位置 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 1軸(中心) | 頭の真後ろに近い | ローリングが大きくなりやすい | 蛇行しやすく、肩を痛めやすい |
| 2軸(両肩) | 肩の延長線上 | 直進性が高く、パワーが出やすい | 意識しないとフラットになりがち |
この2軸の意識を定着させるためには、リカバリー中に自分の腕が視界の端(横方向)を通っているかを確認してください。
肩の延長線上に突き刺すように入水させることで、その後のキャッチで最も水を掴みやすいポジションを確保できます。
効率を落とす「落とし穴」を防ぐための具体的ドリル
知識として「正しいかき方」を理解しても、実際に水の中で体が動くかどうかは別問題です。脳の指令と体の動きを一致させるためには、分解練習(ドリル)が欠かせません。
ここでは、背泳ぎの「手のかき方」における悪い癖を矯正し、推進力を最大化させるための厳選ドリルを紹介します。
ただ回数をこなすのではなく、一かきごとの「水の感触」を意識することに全ての神経を集中させてください。
手のひらの感覚を研ぎ澄ます「スカーリング」
「水を掴む感覚がわからない」という方に最も効果的なのがスカーリングです。特に背泳ぎのキャッチの位置(頭の上付近)で行うスカーリングは、劇的な効果をもたらします。
多くの初心者は、水を手で「押そう」としますが、スカーリングは「水の圧力を感じる」ための練習です。手のひらにかかる圧力が一定になるよう、無限大(∞)の字を描くように動かします。
仰向けに浮いた状態で、腕をバンザイの形にします。その位置で、手のひらを外、内と細かく動かし、自分の頭の方へ水が流れるように動かしてみてください。
この練習を10メートル繰り返すだけで、その後のストロークで見違えるほど「水が重く」感じられるようになります。
- 肘を軽く曲げた状態で、手のひらを左右に45度ずつ傾ける。
- 水面に波を立てないよう、水中15〜20cmの深さで行う。
- 手のひらだけでなく、前腕全体に水圧を感じるまで集中する。
注意!:
肩に力が入ると、手のひらの繊細なセンサーが鈍ってしまいます。指先はリラックスさせ、水との対話を楽しむつもりで行いましょう。
片腕回しドリルで左右の筋力差を埋める
左右のバランスが悪い、あるいは片方だけキャッチが抜けるという場合は、片腕ずつのドリルが最適です。
動かさない方の腕は太ももの横に置いておきます。こうすることで、動かしている腕の軌道と、それに伴うローリングの深さを客観的に把握できるようになります。
特に「回していない側の肩」がしっかり水面上に出ているかを確認してください。片腕だからこそ、体幹のひねりを意識しやすくなります。
- 6キックに1回のペースで、ゆっくりと片腕を回す。
- 入水からフィニッシュまで、手のひらが常に後ろを向いているか確認する。
- 逆側の肩を顎に近づけるようにローリングさせる。
ある私のクライアントは、左腕のキャッチが極端に弱かったのですが、このドリルを1ヶ月続けた結果、左右均等なパワー発揮が可能になり、50mのタイムを2秒短縮しました。
「ドリルは欠点を直すためだけのものではない。自分の長所をさらに研ぎ澄まし、動きを自動化するための儀式である。」
プロスイムコーチの格言
親指から抜き小指から入れる一連の流れを自動化
最後に、リカバリーから入水までの「手の向きの入れ替え」を完璧にするためのドリルです。これをマスターすれば、入水直後のキャッチミスが劇的に減ります。
水面上での腕の回転は、実は「空中で手のひらを外側に向ける」という捻りの動作が含まれています。
この捻りが遅れると手の甲から入水してしまい、早すぎると親指から入ってしまいます。最高効率の入水を手に入れるためのステップは以下の通りです。
- 親指から腕を抜き、真上に上がるまでは親指が先頭。
- 真上(12時の位置)を過ぎた瞬間に、手首を返して小指を先頭に切り替える。
- 耳の横を通過する時は、すでに手のひらが外(横)を向いている状態にする。
この一連の流れを「水面近くで一時停止しながら」行うストップ・ドリルも効果的です。自分の目で手の向きを確認し、理想の形を脳に焼き付けましょう。
専門家の視点:
入水時の音を聞いてみてください。「バチャン」という大きな音がするのは空気を叩いている証拠。「スッ」と吸い込まれるような音がすれば、小指からの綺麗な入水ができている証拠です。音も重要なフィードバックです。
まとめ:背泳ぎの進化は「手のかき方」の理解から始まる
ここまで、背泳ぎの推進力を最大化させるための「手のかき方」について、キャッチの繊細な感覚から、体幹を活かしたローテーション、そして無駄のないリカバリーまで網羅的に解説してきました。
背泳ぎは、四泳法の中で唯一「進行方向が見えない」という特殊な種目です。だからこそ、自分の感覚を研ぎ澄まし、水の抵抗を味方につける技術がタイムや楽に泳ぐための鍵を握ります。
「腕でかく」という古い常識を捨て、「背中の筋肉で水を捉える」という新常識へシフトすること。それが、あなたの泳ぎを劇的に変える最初の一歩となります。
「水に乗る感覚」を一生の財産にするために
かつて、ある60代のマスターズスイマーが「もうこれ以上速くなるのは無理だろう」と諦めかけていました。しかし、彼は今回紹介した「2軸の意識」と「小指からの入水」を徹底的に見直しました。
すると、数ヶ月後には「まるで誰かに後ろから押されているような感覚」を掴み、自己ベストを更新したのです。年齢や筋力に関係なく、技術は常に進化の余地を残しています。
正しい技術を一つひとつ積み重ねることで、水泳は「苦しい運動」から「水との対話を楽しむ優雅なスポーツ」へと変わります。その変化を感じる瞬間こそ、スイマーとしての至福の時です。
一度に全てのフォームを直そうとしないでください。今日は「入水の角度だけ」、明日は「フィニッシュの押し込みだけ」といったように、一つのポイントに意識を絞ることが、習得への最短ルートです。
日々の練習に変化をもたらすために、まずは以下の優先順位で意識を向けてみてください。
- まずは「鼻の軸」を固定し、頭を動かさない姿勢を作る。
- 「小指からの入水」を徹底し、肩の引っ掛かりを解消する。
- 「手のひら全体の水圧」を感じながら、肘を立ててプルを行う。
- 太ももの横で「水を弾く」フィニッシュで、推進力を加速させる。
専門家の視点:
技術の習得には「3週間の継続」が必要と言われています。最初の数日は違和感があるかもしれませんが、脳が新しい神経回路を作るまで、根気よく「正しい形」を繰り返してください。違和感が「自然な動き」に変わった時、あなたのスピードは別次元に到達しています。
明日の練習から使える「背泳ぎ改善チェックリスト」
最後に、プールサイドでこの記事の内容を思い出せるよう、要点を整理したチェックリストを作成しました。
このリストを頭の片隅に置いて泳ぐだけで、漫然と泳ぐ1000メートルよりも、集中した100メートルのほうが遥かに価値のあるものになります。
効率的な泳ぎは、あなたの体を守り、長く水泳を楽しみ続けるための「最強の武器」となります。
- キャッチ:泡を掴んでいないか?水の重みを感じているか?
- ローリング:反対側の肩が水面からしっかり出ているか?
- リカバリー:手首と指先が幽霊のように脱力できているか?
- 呼吸:腕の回転と一定のリズムで同期しているか?
- フィニッシュ:太ももの横までしっかり水を押し切っているか?
以下の表は、目指すべき状態と、よくある「NG状態」を比較したものです。自分の現在の泳ぎがどちらに近いか、定期的に振り返ってみてください。
| 項目 | 理想の状態(Good) | 注意すべき状態(Bad) |
|---|---|---|
| 入水音 | スッと静かに入る | バチャンと大きな音がする |
| プル軌道 | 前腕が垂直に水を捉える | 腕が棒のまま下へ撫でる |
| 体幹 | 軸がブレず、肩だけ回る | 頭が左右に激しく揺れる |
| 疲労感 | 広背筋(背中)を使っている | 上腕三頭筋(腕の裏)だけが痛い |
「泳ぎに完成はない。しかし、昨日よりも一ミリでも効率的なかき方ができたなら、それは大きな勝利である。」
マスターズ・ゴールドメダリスト
背泳ぎの手のかき方を極める旅は、今始まったばかりです。水の中で自分自身の感覚を信じ、楽しみながら「最高の一かき」を追求していきましょう。
